17年も納屋の中に打ち捨てられていたポルシェ356 後編

この1954年356プリAカブリオレは、塗装を剥がしたベアメタルの状態で17年も納屋の中に打ち捨てられていた。よみがえったその走りを絶好のドライブ日和に楽しんだ。前編

冷えたエンジンの始動には、スロットルペダルを踏んでキーを回すだけでよかった。VW式の2分割クランクケース(3分割になるのは翌1975年から)を備えるフラット4が、お馴染みの乾いた咆哮と共に目を覚ます。
 
クラッチペダルは軽く、ギアシフトはさらに軽い。ただし、1速を探しながらレバーを奥に動かす際には、かなり腕を伸ばさなければならない。ハンドブレーキは左側のダッシュボード下にあるため、発進の際にはステアリングを持ち変える必要がある。右手でシフトを操作し、左手でハンドブレーキを解除。クラッチをつないだら発進だ。
 
クルマのレスポンスは非常にいい。1速のギア比は低いので、すぐ2速に上げる必要はあるが、ほかの仕事はエンジンのトルクがやってくれる。また腕を伸ばして3速へ、さらに4速へと上げたら、あとはシートに身を委ねて、55bhpをフルに発揮しているエンジンのサウンドをゆっくり堪能するだけだ。
 


こんなに気持ちのいい日にキャンバストップを上げたまま走るのは犯罪行為にも等しい。そこでルーフを開けてみると、打ち付ける風圧は驚くほど小さかった。クーペで窓を開けて走ったときのほうが風は強い。
 
当時の『Autosport』誌のロードテストを振り返ろう。伝説のジャーナリストでテレビ解説者でもあったジョン・ボルスターは、55bhpのエンジンが発揮するトルクのおかげで、「低・中回転域では、適切なギアレシオも相まって、生き生きとした加速を見せる」と書いている。さらに、「ステアリングの反応が素早く、ブレーキもパワフルだ。これ以上に楽なギアチェンジはちょっと想像できない」と称賛が続く。まったく同感だ。
 
ボルスターは、テストしたクーペで95mphを出すことに成功している。3速では71mph、2速でも50mphに達した。1950年代の小排気量エンジンにしては目を見張る数字だ。
 
では、ハンドリングはどうだろうか。スイングアクスル式リアサスペンションのため、当然ボルスターもオーバーステアを懸念していた。「走ってみると、ポルシェは確かに相当のオーバーステアを見せた。だが経験あるドライバーなら、スピードに乗ってコーナーに入っても、曲がりながらステアリングが戻るのに任せ、苦もなくスムーズにコーナリングできるだろう」とある。

「まとめると、このポルシェは非常に操縦しやすく、素早いコーナリングも可能なクルマといえる。ただし、クルマを完全に知り尽くす前に、滑りやすい路面状況で高度なテクニックを試みた場合は、気が付いたら元来たほうを向いていたといった事態に陥るだろう」


 
私たちは限界でドライブして運試しをする気にはなれなかった。だが、これだけはいえる。スイングアクスルの独特な動きに慣れてしまえば、プリAでも驚くほど速く走ることは可能だ。よくいわれるように、速いクルマで抑えて走るより、遅いクルマを速く走らせるほうがはるかに面白い。
 
新たにオーナーとなるのが誰であれ、この珠玉の逸品にきっと満足するに違いない。まるで新車のように走り、現代のクルマの流れにも十分についていける。なによりミリオネアのクルマのようにゴージャスだ。道を行けば間違いなく注目の的になる。ガソリンスタンドでも質問攻めに遭うのを覚悟しておいたほうがいい。すべての人を魅了するのがクラシックポルシェなのだ。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: Keith Seume Photography: Andy Tipping

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