最古のポルシェ911でグッドウッドのヒルクライムを駆け抜けた!

ベルリンに近いとある納屋で発見され、フルレストアされたポルシェの初期911でグッドウッドを駆け抜けた。

赤い911でグッドウッドのフェスティバル・オブ・スピードのあの“ヒル”を駆け上がった時、僕は1964年にタイムスリップしたような気分だった。僕が乗っていたのは、レストアされた製造57番目の911だ。おそらく現存する最も古い、911と名を変える前のクルマだ。加速性とハンドリングが申し分なくて、生まれた時と同じように新しい匂いがした。
 
実はこの911の正式名は「901」。なぜ911と改称したのか。それは、「早い者勝ち」というよくある話なのだが、1963 年のフランクフルト・モーターショーでポルシェは901を発表し、翌年に市販を開始した。ところがその数週間後、0を挾む3桁の商標権をすでに持っていたプジョー社からクレームがついた。そのために911と名を変えて今日に至っている。


 
実は、シュトゥットゥガルトにあるポルシェ・ミュージアムには伝説的なポルシェ車はすべて所蔵されているのに、この初期の901だけは欠けていた。つまり昨年2017年までは。というのは、2014年にドイツ国営テレビの取材班が、ベルリンに近いある農場の納屋でレアな901を発見したのだ。それを調査したポルシェ専門家は、このクルマが正真正銘、57番目に製造されたものと突き止めた。車体番号は300-057。長い年月、納屋に置き去りにされていたクルマの状態は決してよくはなく、エンジンは動かないしブレーキも固まっていた。それでもポルシェはこれを1370万円で買い取り、その威信にかけて3年の月日と約3200万円を費やして栄光の901のレストアを完成させたのだった。
 
ポルシェにとって特別な意味を持つ911を蘇らせるために、エンジニアたちは根気強くボディの錆びを取り、オリジナルの塗装を剥がしていった。ボディで残せるのは50%あまり。このクルマの真正性を守るため、できるだけオリジナルのパーツを使い、それが手に入らない場合は特注してレストアを完成させた。
 
隅々まで入念に手が入っていて、それは感激的だ。ポルシェの歴史の専門家は、ごく初期のモデルにだけあった数々の特徴が、このモデルに復元されていると話してくれた。たとえば、シフトレバーを包む本革製のスリーブは、901だけに使われたものだ。いっぽう、交換が必要だったパーツは1965年型911のものが使用された。ただ、優先されたのは現代の塗装技術だ。当時は溶剤をベースとした塗装だったが、レストアを担当した専門家は環境に優しい水性ベースの塗装を使った。


 
ラリー・チャンピオンのヴァルター・ロールと、ル・マン5回優勝のデレック・ベルが後ろから着いてくるグッドウッドのヒルクライムで、僕はポルシェの数十年の歴史に駆り立てられるのを感じていた。とはいえ、逸る気持ちを懸命に抑えて運転に気持ちを集中させ、完璧にレストアされた稀少な901を丁寧に、間違いなく変速して全長2kmのコースのライン取りを守って駆け抜けた。5万人の観衆が凝視する中で、ミスは許されない。
 
この901 は外観が素晴らしいだけではなかった。音の響きも、運転性能も、夢のようだった。美しく細いウッドリムのステアリングホイールとチェック柄のバケットシートを設えた901は、新しく柔らかな本革と当時と同じ木目調のトリムのお陰で、54年を経た黴臭さもなかった。


 
電子的な運転補助機能のない時代のクルマだから、この901をなめらかに運転するのは難しいだろうと思われがちだが、そんなことはない。もちろんステアリングは適度な手応えで、マニュアル・ギアボックスは正確でカチっと入る。130psを発揮する2ℓのエンジンの加速性は期待以上。今、工場から出てきたかのようで、猫が満足げに喉を鳴らすように気持ちのいい音と振動だ。
 
901を運転したあの2kmの間、世界が止まったようだった。あれだけ有機的でデザインセンスに富んだクルマとの一体感は初体験。もう他のことは飛び去っていた。クルマの鍵を返すと、僕は1964年から現代に戻った。本当は戻りたくなかったけどね。

文:ピーター・ライオン Words:Peter Lyon 写真:ポルシェ Photography:Porsche

RECOMMENDED

RELATED

RANKING