公道を走行できるポルシェ911として至高の存在を復活させる

Photography:Andy Tipping

911Rのモデル名は最新のタイプ991で復活を果たしたが、そのスピリットをダイレクトに受け継ぐ911がカリフォルニアでも生み出されているという。

レーシングカーのベースモデルとしてごくわずかな台数が生産され、いまや天文学的な価格で取引される往年の"R"は、恋い焦がれるほど魅力的であるにもかかわらず、私たちにはほとんど手が届かない雲の上の存在でもある。なんの飾り気もないメカニズムで数々のレースを制した名車は、しかし、世界的に有名なコレクションに所蔵されて私たちの物欲を刺激するだけでなく、新たなインスピレーションを生み出す源にもなっている。とりわけ、若い世代の人々にはそうしたモデルが重要な意味を持っているようだ。ここで紹介するスペシャルモデルは、かつてはポルシェ自身にも夢見ることしかできなかった最先端テクノロジーで当時のアイデアを蘇らせる珠玉の作品といっていいだろう。


 
数々の名車が名を連ねるポルシェのホモロゲーション・スペシャルのなかにあって、911Rは常に特別な1台だった。
 
ポルシェ最速のモデルだったわけではないが、軽量で公道を走行できる911としてはまさに至高の存在だった。コンパクトで、自然吸気エンジンを搭載し、ドライビング・フィールは信じられないほどダイレクト…。走りに必要のないパーツをすべて省き、グラスファイバー製ボディパネルをまとわせることで、実に911Sの25%に迫る重量を削ぎ落とすとともに、906用と極めて成り立ちの近い排気量2.0リッター・エンジンは、ツインスパークと2基のトリプルチョーク・ウェバー・キャブレターで武装することで210bhpを発揮。プロトタイプとポルシェのワークスカーを含めてもたった24台が作られたに過ぎないが、そのパッケージは完璧といって差し支えない。惜しむらくは、我々がステアリングを握るチャンスが皆無に近い点にある。


 
しかし、それに似たことであれば体験できる。カリフォルニアのエモリー・モータースポーツでレストアされたこの911は、残念ながら前述した"オリジナル911R"のうちの1台ではないが、ほとんど同じスペックを備えている。ショップオーナーのロッド・エモリーは、1966年当時のエッセンスを現代に蘇らせようとしたと語る。

「飾りっ気がなくてうるさくて、人によっては気持ちの悪い匂いがするかもしれません。でも、とびっきりにスリリングで、軽量パーツを全面的に使っています。でも、GT3 RSと同じように、法的には公道走行が可能です。ですから、これで一般道を走るラリーやビンテージカーレースに出場してもいいし、普段乗りにも使えます」
 
インスピレーションの一部は1966年よりも古いモデルから得ているという。ロッドの家は三代続くクルマ好きで、彼の祖父は乞われてポルシェ・ディーラーに勤務するようになるまで、この近所でショップを営んでいた。いわば、この土地にはクルマ好きの文化が根付いているわけで、その思いはおそらく彼の息子へと受け継がれることだろう。ところで、1980年代に地元のポルシェ愛好家がこぞって楽しんでいたのが356をオリジナルどおりにレストアすることだったが、ロッドと彼の父はここで新風を巻き起こす。バンパーを取り外し、ワイドなホイールやハイパワーなエンジンを組み込むと、ボディにレース用のカーナンバーを描いてみせたのだ。ハードな走りにも耐えるスペックながら、仕立ては完璧。以来、そんな"アウトロー"がエモリー家のトレードマークとして扱われるようになった。

 

そうした伝統を、ロッドはいまもしっかりと守っている。1996年にオープンしたエモリー・モータースポーツはコンクールにも出場できるレストアの腕を持ちながら、イマジネーション豊かなモディファイを行うショップとして人気を博しているのだ。「 私たちのやり方を理解し、賛同してくれるファンのために"アウトロー"やスペシャルモデルを製作しています。やろうと思えばコンクール・デレガンス向けのレストアもできますが、そういう仕事にはあまり関心がありません。そもそも、その種のレストアを行う素晴らしいショップは、ほかにいくつもありますからね」

次回へ続く・・・

編集翻訳:大谷達也 Transcreation:Tatsuya OTANI Words:Alex Grant Photography:Andy Tipping 取材協力:Rod Emory Emory Motorsports (www.emorymotorsports.com)

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