ポルシェの伝説のレーシングマシン 917の乗り心地は?公道で試乗体験

Photography: Tom Wheatley



問題はシャシーフレームとダッシュボードだ。助手席は左側なので、私からは見えないものの、右のくるぶしのすぐ近くにはクラッチペダルがある。かといって左側はシャシーフレームで埋まっている。本当にドアを閉められるのかと危ぶんだが、案の定、肩は両側から押し込められ、頭はドアにぶつかり、まったく身動きが取れなくなった。とはいえ、それでよかったのだろう。なにしろ1970年の車両としてホモロゲーションを受けたときから、助手席のハーネスはオプションのリストにも載っていなかったのだ。
 
クローディオが1速に入れた。もう後戻りはできない。名高い917は聖なるモンスターだ。私の肩の後ろにはあの12気筒エンジンが鎮座する。917-037の仕様では、4.9リッターで最高出力は600bhpを超える。それでいて燃料やオイルを搭載した状態でも車重は600kg強にすぎない。二人乗っているから実際にはもう少し重いが、1000kgで1000bhpという驚異のパワーウエイトレシオである。 



いうまでもなく防音材などないので、車外で聞くのと同じ大音量がコクピットを満たす。駐車スペースから発進するとき、私は衝撃に備えて頭をすくめた。ところが衝撃が来ない。917のサスペンションは驚くほど柔軟なのだ。思えば、このマシンが造られた当時のサーキットは、今のようにビリヤード台さながらのスムーズな路面ではなかったのだから当然である。

 
続いて強烈な加速が襲いかかってきた。座っているグラスファイバー製シートが歪むのがわかる。座る者の体重がGフォースで倍増するからだ。まさに野獣が解き放たれた瞬間である。突進するパワーは表現のしようがない。一般的な車の世界には比較し得るものが存在しないのだ。
 
クローディオは既にヴァレルンガやハラマ、モンツァ、ニュルブルクリンクといったサーキットで走行しているから、917のハンドリングや性格は把握している。いかに効率的に減速できるかも知っているから、ブレーキングポイントも承知しているはずだ。彼を信じよう。



そうはいっても、コーナーが恐ろしい速度で迫ってくると思わず身がすくむ。私にはシートベルトも、しがみつくグリップもないことを、クローディオは完全に忘れているようだ。加速力に劣らず制動力も凄まじい。だが、特に格闘する様子もなく楽しんでいるクローディオを見て、917は公道でもドライビングが"楽"なのだと私は確信した。
 
日曜日に早起きをしてモナコの高台で日の出を拝む。そんな贅沢を楽しむときに917は最高の足になるだろう。長距離ドライブ向きではないかもしれないが。私はそう思ったのだが、あとでクローディオから、もう917に乗ってイタリアまでディナーに出掛けたと打ち明けられるのだった…。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: Josué Chevrel Photography: Tom Wheatley

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