「911をフルタイム4WDにせよ」959に見るポルシェ四輪駆動進化の記録

革新的な四輪駆動システムをもって過酷な長距離ラリーに臨んだ、ポルシェ80年代の活動を振り返る。

時は1979年、フェリー・ポルシェは四輪駆動の優位性を目の当たりにしていた。当時の世界のラリー界では、5気筒ターボエンジンを搭載したグループ5・モンスターマシン、アウディ・クアトロが席巻していた。ヴァルター・レアルやミシェル・ムートンといったドライバーの腕もさることながら、ボクシーなアウディは、卓越した駆動システムを武器にいとも簡単にライバルを打ち負かしていたのである。
 
フェリー・ポルシェはこの事態にすぐさま反応、ポルシェがいつまでもリアエンジン/リアドライブに固執していては時代に取り残されると悟り、同社の名エンジニア、エルンスト・フールマンに911を四輪駆動に仕立てるよう命じた。少なくとも紙の上では無理な注文ではなかった。というのは、オリジナルのVWのトランスミッションは、水陸両用のタイプ166シュビムヴァーゲンなどで実践されたように、前後輪をともに駆動するよう改造するのは比較的簡単だったからである。


 
しかし、フールマンは四輪駆動のためにポルシェのエンスージアズムを割くことはしなかった。確かにそこにいくつもの優位性は認められたものの、開発コストやそれがもたらす可能性、限られた販売台数などにまさるメリットを見いだせなかったのである。歴史的にポルシェは競技用車両を新技術のテストベッドと位置づけており、ターボエンジンもレースで鍛えられた末に930ターボを誕生させた。だが、四輪駆動の911が市場を賑わすには、まだ数年かかると見たのである。とはいうものの、四輪駆動の種は撒かれた。種はやがて成長して実を結ぶ。それがタイプ954、すなわち生産型911SCの競技車両911SC/RSである。軽量なこの車がグループBの参加資格を得るためには最低200台が生産されなければならなかったが、911SCが911ラインナップの柱になったことを認めたFIAはその条件を課さなかった。
 
その結果、4WDのSC/RSは20台だけが製造された。3リッター エンジンは250bhp/7000rpmの最高出力と25.4mkgの最大トルクを6500rpm弱で発生、シリンダーヘッドはターボ付きレース専用モデル935のそれを10.3:1の圧縮比で使用するというものだった。ノーズ両サイドにふたつのオイルクーラーを備えることで充分な冷却性能を確保。硬い岩にぶつけても破損しないようにオイルパイプはシルの中を通した。


 
駆動システムは911SCと同じ915型トランスミッションに手を加えて四輪駆動としたもの。もともとの設計が二輪駆動ゆえに、リア・サスペンションとリアブレーキは量産型ターボモデルよりも高い位置に設けられた。

重量は1060kg足らず。アルミニウムのボディパネルや前後バンパーにグラスファイバーのモールディングを採用したおかげで達成した軽量ボディだが、それでもFIAグループB規定の最低重量に照らすとまだ100kgも重かった。四輪駆動に改造した効果は明らかだったが、1984年に2戦参加したWRCでSC/RSはさしたる成績を残していない。
 
SC/RSの開発はその後続けられることはなく、ポルシェの技術陣はむしろ1950年代のタイプ597ヤクトワーゲンやその後の軍用プロジェクトから多くを学び、技術の情熱を高めていった。


ポルシェとロスマンズが組み合わさり・・・次回へ続く

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:Keith Seume Photography:Porsche Archiv

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