過酷な長距離ラリーに臨んだポルシェ959│エンジン、ボディ構造は?

この記事は『パリ-ダカールで伝説を残したポルシェ959│開発までの道のり』の続きです。

ボットは優れた性能の新型エンジンを積む四輪駆動のクーペを造るつもりだった。この時点ではまだコードネームが与えられていなかったが、のちに959となる車である。彼の頭の中では1気筒当たり4バルブの水冷式シリンダーヘッドを持つ2.8リッター水平対向6気筒エンジンの姿がすでに描かれていた。マルチバルブも944や928で使われた一般的な水冷方式を導入すれば事足りた。


エンジンにはさらに、チタニウム製コンロッド、シリンダーバンク当たり2本のOHC、それに2基のシーケンシャル・ターボチャージャーを備えることもすでに決めていた。FIAが定めた、過給機を持つすべての車は1.4の過給係数をかけて排気量を算出しなければならないという規定によれば、この車は4リッター エンジンとして扱われるが、一般路上での使用、あるいはコンペティション・ユースかによって400bhpから500bhpの間で好きな出力を選ぶことができた。
 
エンジンのほかに興味深かった設計プランとしては、フロント・ディファレンシャルとリア(厳密にいえばミドだが)にマウントされるPDKトランスミッションがトルクチューブによってリジッドにつなげられることがあった。PDKはグループCカーの962で開発されたものとよく似ていた。その車は紛れもなくニューテクノロジーの集大成であり、ほかにもセルフ・レベリング&車高調整機能付きのサスペンション、コクピットから調整可能な可変ダンパーシステムなどが搭載された。後者はその後も開発が進められ、今日のボタンひとつでスポーツ、コンフォートが選べる車に継承されている。
 


ボットはFIAのグループB 規定が要求する最低重量規定が1100kgより増えることはないと予想し、レギュレーションの許す限度まで開発を進めた。いうまでもなくそれは総輪駆動システムであり、凝ったサスペンションであり、複雑なツインターボエンジンである。それらをすべて搭載しようとすれば決して軽い車にはならない。そこでできるだけ車両重量を抑えるために、ボディの使えるところはすべて、アルミか複合素材とした。
 
システムを語る上で欠かせないのがPSK(Porsche Steuer Kupplung)と呼ばれたクラッチ・コントロール・システムである。前輪への駆動はリアのトランスアクスルの前端からトルクチューブの中を貫く小径のシャフトを介してフロント・ディファレンシャル・ユニットに伝達されるが、この内部にあるのがPSKユニットである。PSKは言い換えればマルチプレート・クラッチ・システムのことで、路面状況やドライバーの好みに応じて前後のトルク配分を変える役目を果たす。以前のシステムはやかましかったが、これの作動音は穏やかであった。PSKは、スロットル・ポジション、横方向のGフォース、ターボブースト圧、ステアリング切れ角の4つのパラメーターを分析して最適なトルク配分を決定する。


 
PSKは以下の4つの異なったセッティングを状況に応じて自動選択する、当時としては画期的なシステムだった。通常は前40:後60のトルク配分、ドライバーがアクセラレーションを強めるとリアの配分を高めて80%に、豪雨などで路面状況が悪くなると50:50に変化した。最悪のコンディションになるとフロント・ディファレンシャルが完全にロックされ、スプールの状態に制御された。
 
4輪それぞれに配したスピードセンサーからの情報、スロットル・ポジション・センサーからの情報、さらにターボの圧力をチェックするマネージメントシステムからの情報がそれぞれコンピューターに送られ、コンピューターは路面状況とドライビングスタイル双方の情報をもとにサスペンションとドライブラインのセッティングを最適化した。1980年代中頃にして、ほとんどフールプルーフに近いシステムがすでに出来上がっていたのである。


いよいよラリーへ・・・次回へ続く
 

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