伝説のラリーカーポルシェ959でダートを行く│優れた四輪駆動システムを世界に示す

この記事は『過酷な長距離ラリーに臨んだポルシェ959│エンジン、ボディ構造は?』の続きです。

959のトランスミッションはボルグワーナー製である。参考までにいえばタイプ950というコードネームを持つトランスミッションで、生産型911にも使われていたものだ。959がまだ設計段階にあるとき、のちにラリーカーとして使われることを想定してこの6段ギアボックスの導入を決めたのだが、パリ-ダカールを走るには特別なギアレシオが必要で、それを追加すれば車重は増え、ボディ全長も延びるなどパッケージングの問題にまで発展するところだった。それを避けるため6速のうち1速を極端に低いレシオに当てることになった。したがって深い雪や泥濘地以外のフィールドでは、残りの5段でまかなわなければならなかった。
 
プロジェクト全体における最大の目的は、ポルシェがラリー、サーキットレースともにグループBで活躍することだった。959では1984年パリ-ダカールでみつかったクラックの問題が二度と発生しないようハードなテストが実施された。959は名称やボディスタイルから特殊な車と扱われたが、さらにパリ-ダカール出場車は生産モデルと比べて、ケブラーで強化された軽量プラスチックボディパネルを持つなど、かなり異なっていた。エンジンは自然吸気のカレラ3.2 から派生したものだが、クランクケースはオリジナルのアルミ鋳造からマグネシウム鋳造に換えられた。しかしながら逆のケースもあって、ノーマル959のドライブトレーンはマグネシウム鋳造だが、パリ-ダカール・モデルは剛性を高めたアルミで作り直されている。
 
PSKシステムは継続採用されてリア・ディファレンシャル(953のスプール方式は中止された)と合体、ドライバーはセッティングの幅を広げることができた。これによってドライバーは両方のディファレンシャルを自由に操作できるようになり、リアのロックアップを40~50%としながらフロントのロックアップはごくわずか、あるいはまったくゼロにして走ることもできた。前後のトルク配分調整ができるようになったために、高速のセクションでは50:50の配分が好きなドライバーも、車を振り回したいシーンでは簡単にリアのバイアスを高めて走ることができた。だが、2年目のパリ-ダカールにニューカーを持っも6位に入賞することができた。
 
959はダートで持てる能力を存分に発揮したが、舗装路ではどうなのだろう、また耐久レースを戦う力はあるのだろうか。その役目は959をサーキットレース用に仕立て直したタイプ961 が担った。サーキットレースではより空力性能が重視されることから、その道の第一人者、ヘルムート・フレーゲルが961の開発担当となった。生産型959がダウンフォースを得る手法は、テールをわずかに持ち上げてノーズを下げることくらいしかなかったが、この方法では重心が高くなりレースカーにはまったく適していない。



フレーゲルは半年かけて961が持つべき空力スタイルをコンピューターを駆使して追求し、チームには1/5スケールのクレイモデルを使って風洞テストを実施させた。959のマルチバルブ仕様第6世代ツインターボエンジンを600bhpまで高めた961は、1986年5月のル・マン・テストデイに間に合わせることができたが、ドライブしたルネ・メッジはユノディエールのストレートで安定性に欠くこと、高速コーナーで不安定な挙動を示すことを指摘した。原因は空力よりむしろリア・サスペンションのマウント部分にあった。
 
961はル・マンを走る車として初の四輪駆動車だった。というのは、FIAは自らが定めたクラスでは四輪駆動車を認めていなかったが、IMSAGTX規定に合致さえすればル・マンを走ることができたからである。IMSA GTXでエントリーしたのは、ポルシェがアメリカの顧客向けに961を売りたいという思惑もあった。

レースは大成功といえる結果で終わった。1台のみの出走だったにもかかわらず、961は6位でフィニッシュし、上位の5 車はすべてグループCカーだったことを見ればいかに立派な成績であったかがわかる。ポルシェにとっては技術力の高さを思う存分誇示することができた結果である。

パリ-ダカールとル・マンのふたつのイベントは、全世界にポルシェの複雑な四輪駆動システムが世界でもっとも優れたものであることを示した。もちろん現実的には高コストがゆえにそれがそのまま一般向けの量産車に導入できたわけではないが、そこで得た経験がのちの964カレラ4などに活かされたことは疑いようがない。四輪駆動技術は今日も、またこれからもポルシェを輝かしいものにしていくことだろう。

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:Keith Seume Photography:Porsche Archiv

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