エンジンが最大限の性能を持続できるためにクレマーが出した答えとは?ポルシェ 935 K3

この記事は『一度見たら忘れられない衝撃│誰もが認めるほど速かったオレンジ色のポルシェ935 K3』の続きです。

クレマー・チームは熱交換器を巨大なパイプごと左右リアフェンダーの内側に隠し、インタークーラーの冷却方式を水冷から空冷に代えたのだ。冷気が直接インタークーラーに当たるような工夫も盛り込まれた。この合目的的な手段は功を奏し、吸気温度を20℃も下げることに成功、エンジンのパフォーマンスは飛躍的に向上した。性能アップの要因はほかに、マイナーな改良や圧縮比の変更、ターボやタイヤの見直しなどによる部分もあるが、インタークーラーの方式を水冷から空冷に改めたことこそ、K3を世界王者に押し上げた原動力といって間違いない。

 
着目したいのは、当時のモータースポーツ・テクノロジーでエレクトロニクスが占める役割はごくわずかだったことだ。現在ならコンピューター上ですべてがシミュレーションできるが、当時のクレマーはこの結果を得るためだけにサーキットでレースを想定した走行テストを幾度となく繰り返し、熱の問題を解決したのである。
 
ケルンのワークショップで働く人たちは、プロフェッショナルなスポーツカー・チューニングにおいて先頭を切って世界標準を作り上げたのは自分たちのスタッフやクレマー・レーシング・チームであることを誇りに感じている。2基のKKK製ターボチャージャーを搭載し高度にチューンされた3リッター水平対向6気筒エンジンは、元来の2857ccからボア、ストロークともに拡大して2994ccとし、1.2バールの過給をかけたときに800bhp/8000rpmの最高出力を絞り出した。ギアボックスはオリジナルに対して前後逆にして搭載した。こうすればエンジンを降ろさずにギアレシオの交換ができるのだ。この搭載法は全高を40mm以上下げることにも貢献している。クレマー技術陣が選んだブレーキは、標準より40 %も容量の大きなものだが、これは1000kmレースでも交換の必要がないことを意味した。ダンパーもビルシュタインがK3のために製作したワンオフの特注品だ。
 


935特有のボディワークはグループ5レギュレーションから逸脱しない範囲でかなりのモディファイが加えられている。規定では、リアウィンドウはオリジナルの位置から変えてはならないとしている。クレマーではオリジナルの窓は残しつつ、さらにその上により浅い角度で寝かせた第2のリアウィンドウを追加して、ボディ後半の空気の流れを大きく改善、左右の深いサイドポッドがもたらすグラウンド・エフェクト効果と合わせて著しい量のダウンフォースを発生させているのだ。
 
飲料メーカーのイエガーマイスターが主要なスポ充分なテストが磨く実戦への対応力K3のンサーとしてチームに加わったとき、すでに躍動感のある造形は出来上がっていた。そこへ人気のある飲料ブランドを象徴する明るめのオレンジ・カラーが全身を覆い、特徴的なレタリング、鹿の頭のブランドマークが加わって視覚的効果は抜群に高まった。
 
最初のテストはアウトバーンで行ったが、すぐさま合法的なゾルダー・サーキットで本格テストを開始した。結果は上々で、そこで初めてクレマー・レーシングとして1979年のレースシーンに参戦できそうな自信をもつことができた。この年、ル・マン24時間はポルシェであふれかえっていた。なんと出走した55チームのうち、21ものチームがポルシェを使用したのだ。予選ではワークスの2台が1、2位を占め、それに続いたのがクラウス・ルドウィグの乗るクレマーK3だった。
 
クレマー・レーシングからは2チームが出走した。ひとつはプロドライバーのルドウィグとアメリカの"ジェントルマン"ドライバーであるドンとビルのウィッティントン兄弟から成るチームでK3を、もうひとつはアクセル・プランケンホルムとルイス・クラージュ(別名"ジョン・ウィンター")、フランス人のフィリッペ・ガルジャンがクレマー・ポルシェ935でエントリー、知名度の低いクルーながら予選上位につけた。もっともこの成績はウィッティントン兄弟がペイドライバーとしてこちらのプライベートチームに力を貸して得たものであった。当時は"お客さんへのサービス"として、こういうことが当たり前のように行われていたのだ。
 
1979年のル・マンは彼らの誰にとっても忘れられない結果となった。ことの始まりはポルシェ・ワークスチームに降りかかった不運だった。序盤からトラブル続きだった1 台目の936が最終的にエンジントラブルで脱落、もう1台の936もトラブルでストップした際に外部から助けを得たかどでレース・オーガナイザーから失格を言い渡されたのである。これでレースはカスタマー・チームだけが残ることになり、どちらもケルンを本拠地とするライバル、クレマーとルース(チーム名はGELO)が骨肉の戦いを繰り広げることとなった。


・・・次回へ続く

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words: Britta Bau Photos: Stefan Bau

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