かつてのレースカーを公道でも走れるように・・│ポルシェ934のレストアプロジェクト

この記事は『ポルシェ934レストアプロジェクト│ボディ塗装の剥離からは・・・』の続きです。

934の弱点を語るうえでもうひとつ欠かせないことが、グループ4の規定によって、リアのタイヤ幅が制限されていることであった。直径は16インチ、横幅は12.5インチに制限されており、強烈な加速力にはあまりに不充分なグリップ力しか発揮できなかった。ドリフトするには最高の組み合わせかもしれないが、レースでは934のパワーが宝の持ち腐れとなる場面が往々にしてあった。その点、934/5のリアタイヤは横幅14.5インチまで許容されていた。

この2インチがもたらした加速時における車両安定性の違いは、歴然としたものだった。もちろん、リアタイヤが2インチ広がるとなると、リアのホイールアーチも拡大させる必要がある。934のリアホイールアーチと、934/5に装着するものを見比べたものがある。この2インチは走りに大きな違いをもたらすだけでなく、視覚的なインパクトも大きい。

 
グループ5はエンジンの改造に寛容だった。934と比べると大型になったリアウィングを装着し、リアタイヤのワイド化などにより、934/5はさらなる出力向上にも耐えうるように進化を遂げた。まず、ポルシェ社内でも不評だったと言われている、ボッシュ製Kジェトロニックを同社の機械式燃料噴射装置に変更。そして、ツインプラグ・イグニッションを採用することにした。934/5の最高出力は590bhpが謳われており、934と比較して95bhpの出力アップが図られていた。もちろん、各チーム、独自のチューニングを施していたので、あの頃の934/5の最高出力は600bhpを超えていただろう。



「0154は、934にも934/5にもなれるように仕上げてあります。リアウィングは2セット、リアホイールアーチも2セット、ホイールも2セットそれぞれの仕様に合うように用意されています。取り外しは容易にでき934仕様はディスプレイとして使われるときのために、934/5仕様はサーキット走行するときのためにです」とファルディーニはいう。
 
934は市販車がベースなので電装部品は911譲りとなっている。ライト、ワイパー、ウィンドウウォッシャーなどは911のまま残されている。レースのために改造されているところを挙げるとするとゲージ類が顕著だ。燃料計、オイルレベルゲージ、スピードメーター、時計が取り払われ、回転計は10000rpmスケール(レースエンジンの最高回転数は8000rpm)に交換されている。このタコメーターには通称"スパイ針"と呼ばれる最高回転数を記録する2本目の針が備わっている。時計があった箇所には、ブーストゲージと金属のノブが設置されている。このノブを右にひねるとブースト圧を高め、左にひねるとブースト圧を弱めエンジンへの負荷を軽くする。そして、ブースト計とノブの間には消火システムのスイッチが配されている。
 
メーターパネル内には2個の大きな警告灯が追加されている。1個は燃料のメインタンク残量がゼロになったことを示すもの。一般的なサーキットでは、リザーブタンクで1周分の走行はこなせる。そして、もう1個はエンジンオイルが高温になった際の警告灯だ。油温計は市販車と同じものだが、サーキット走行中は気づかないほど小さな警告灯を補うためだ。


 
ステアリングホイールは、前オーナーであるマーク・ニベレットによって1977年に交換されている。これは同時期の2.8RSRのもので、センターにホーンボタンが配されている。そう、この0154はロードカーとしても使えるように仕上げられているのだ。したがって今後、スピードメーター、オドメーター、燃料計(燃料タンクはFIA基準を満たす最新の複製品)などの追加が予定されている。また、Kジェトロニックから機械式燃料噴射装置に交換されたことで不要になった2個のゲージ跡には、吸気温度計と空燃比計が備え付けられた。
 
934が耐久レース向けに造られたことを実感させられるのは、ボンネット上に追加のランプが装着できるように専用のステーが設けられていることだ。また、ル・マンの規定により、ドアのカーナンバーが夜間でも見えるように、ライトアップの機構が備わっている。さらに、短波無線器を装備していたことも、いかにも耐久レース車両らしい。
 
だが、オーナーのファルディーニは、それらの部品もレストアするものの、車両への取付けは見送るつもりだと言う。ライトはいつでも装着できる状態にはするが、見栄えを優先したようだ。また、もはや短波無線を使うことはナンセンスだし、最新の無線であれば人目につかないように装備することもできるというのが見送りの理由だそうだ。
 
次回はエンジンの作業風景、レストアの終盤作業をお届けする。

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