どこまで「オリジナル」に沿うか・・・ポルシェ934のレストアで直面した問題

目に見える部分はオリジナルにこだわりながら、あくまでもル・マン・クラシック参戦を主眼にレストア作業、そしてチューニングを進めていく。もともとはグループ4マシンだったファルディーニの934はグループ5マシンである934/5と刻々と進化を遂げていく。

934のレストアにおいて、オーナーであるパオロ・ファルディーニが直面した問題は、どこまで"オリジナル"に沿うのか否かの選択だった。特にレースカーという性質上、長年走っていればいるほど、エンジンが交換されている可能性は高まるものだ。レーシングドライバー目線で見るか、コレクター目線で見るか、どちらの立場なのかによって、オリジナルであることへの価値観は大きく異なってくる。

「かつて新車時に搭載されていたエンジンのありかを風の便りで聞きつけ、探しに出向いたこともあります。しかし、違うものでした。そして私はレース重視なので、当面はオリジナルへの執着は忘れることにしました」とファルディーニは語る。ただ、いま搭載されている"非オリジナル"の934エンジンですら、現在となっては貴重な存在といえる。そこでレストアを機に、搭載されている934エンジンを保存し、934エンジンのレプリカに載せ替えることにした。また、オリジナルのエンジンに遭遇した場合は、"展示用"として購入するつもりだという。積極的に探すのではなく巡り合わせに委ねたのだろう。"934エンジンのレプリカを造る"と文字にすると単純に聞こえるかもしれないが、これが意外と難しい。

なぜなら、934はレースチーム向けに販売された車両で、チューニング内容は公の情報としては存在しない。また、パーツには入手が困難もしくは不可能なものもある。面白いもので、誰かがあるパーツを探しているという噂が流れると、そのパーツが市場から消えることもあれば、急に高騰することもある。FIAのレギュレーション変更にあわせてチューニング内容も異なっているし、年式によっても変わっている。
 

これがオリジナルの934エンジンだ。ボッシュ製Kジェトロニック燃料噴射装置、2個のヒートエクスチェンジャーがエンジン上部に取り付けられ、それらの間に挟まれるように空冷ファンが装着されている。

1976年式の934(欧州仕様)には、最高出力485hp/7000rpmと噂された、タイプ930/71エンジンが搭載されていた。特徴としては、悪・・・・評高きボッシュKジェトロニック燃料噴射装置が備えられていたことだろう。低燃費化、低排出ガス化という要件のために登場したKジェトロニックだったが、それと引き替えにスロットルレスポンスの悪さをもたらしたことは、ポルシェのエンジニアさえもが認めるところだ。同年後半には、ポルシェから改良キットとして、スロットルレスポンスを向上させるカムシャフトが投入されたほどだった。それでさえも、改良具合には疑問が残った。
 
翌年には935に最高出力590bhp/8000rpmを誇るタイプ930/72が投入され、SCCAとIMSA向けだった934/5にはタイプ930/73エンジンが搭載された。タイプ930/73エンジンは930/71同様、生粋のグループ4エンジンだった。ただ、タイプ930/73エンジンには使い慣れたボッシュ製機械式燃料噴射装置が復活した。セッティングこそKジェトロニックより難しかったが、信頼性と安定性、なによりスロットルレスポンスに優れていた。市販車である911には1969年から73年まで採用され、レース車両には80年代前半まで使われていた。

「私がこのクルマをレストアするにあたって最も重視したのは、2012年ル・マン・クラシックへの参戦です。FIAレギュレーションはなく、単に年式だけでクラス分けされるので、グループ5車両である935と同じカテゴリーでの参戦となります。となれば、934のエンジンをグループ5と同じように仕上げても問題はないのです」
 
実際、1978年以降タイプ930/73エンジンはIMSAレギュレーションから開放され、グループ5エンジンのような進化を遂げていった。チームによっては、最高出力670bhpに達していたとも聞く。レプリカエンジンもカムシャフト、ツインプラグ・イグニッションなど手を加えることが決定した。なお、エグゾーストはクラシックカーレース参戦であっても、ストレートパイプは禁じられている。


レストアで最大の苦労は何だったか・・・次回へ続く

編集翻訳:古賀貴司(自動車王国) Transcreation:Takashi KOGA (carkingdom) Words:Paolo Faldini Images:Kremer, Porsche Archives and PF

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