参加するときの心得と収穫できるもの│ドライビングレッスンのありがたみ 後編

Yokohama Turbo 2020/05/20

当然のことではあるが、愛車のコンディションだけではなく、自身のコンディションも整えてからレッスンに臨みたい。ハードな1日が待ち構えている。

さて、いざドライビングレッスンに参加することになった。そこで得られるものとは? 前編はこちら

①未経験や初心者はどのような心構えで参加すれば良いのか
丸一日のレッスンを受ければ、誰でも専門家領域の運転スキルがすべて身につく…なんてことは絶対にあり得ない。ただのんべんだらりとレッスンに参加するのは、ガソリンとタイヤを無駄にするだけだ。

プロドライバー…特にレーシングドライバー側の立場から考えると、受講生のスキルを観察すれば、どこまで教えるか…のようなものはすぐに察しがつくはずだが、こちら側から「あれもこれも教えてください!」の一点張りだと、出来もしないことを教えられるワケがないだろうと、彼らも困惑するだけだと思う。

ゴルフなどのスポーツでも同じことがいえるかもしれないが、経験上では…教え上手なプロは出来ていることに関しては何もいわない。あるいは、出来ていないことだらけであっても、その時に最低限これだけは… と判断したことだけを集中的に指導してくれるはずだ。


風の当たりにくい低速高回転コンディションに晒されるコースレイアウト。暑い時期であれば走行毎に外周路や敷地内の安全な場所でゆっくりと風を当てながら走行して、油温を下げるなどの対策を心がけたい。

未経験/初心者に対しては、自分が正直にそうであることを伝えれば、それなりのメニューを考えた上でのアドバイスをしてくれるはず。それに素直に従って自己流を見直していくと、新たな世界が見えてくるのは間違いない。

まずはじめは、限界特性を身体に染み込ませるまで走り込みをしてみたり、普段ではなかなか出来ない、本当のフルブレーキング等を練習してみるのもアリだ。自分の目指した場所に車を完全停止させる。とても簡単そうだが、これがなかなか難しい。Gシリーズまでの非ABS車であれば、なおさらである。


②経験者や中〜上級者、レース/タイムアタックで結果を出したい人は?
まずはその日のレッスンにおいて、自分が身につけて持ち帰りたい目標を決めておくことが大切。未経験/初心者の項でも触れたが、あれもこれも根性は捨てて、1〜2点に集中すること。脇阪薫一氏によるプライベートレッスン、あるいは砂子塾長主催の「砂子塾」といった名だたる一流レーシングドライバーのレッスンにおいて、はっきりと言われたことがある。

「もしもレースやタイムアタックで結果を出したい。そういった受講内容では当然スパルタ形式で行います。甘えは通用しない厳しい内容です」


脇阪薫一氏のプライベートレッスン。普段は5〜6名、最大でも10名ほどだ。その分走行回数も増して内容も濃くなる。


砂子塾長開催の砂子塾。こちらも少人数制でメニューにも富み、塾長のレーシングアドバイスのみならず、インストラクターの東風谷高史氏が同席なので、初歩的な質問やアドバイスなど、細かな対応に応じてくれる安心感がある。初心者/ベテラン問わずに、わからないことはわかったフリなどせずに聞く、これが基本だ。

これこそがすべてである。彼らの世界とは、レースにおいて初めて乗るクルマであってもアウトラップに特性を理解し翌周に結果を出さないと、次の仕事がなくってしまう世界なのだ。もしかすると、自己流のままを貫いてきたり、ある程度の自信家な経験者においては、クルマを速く走らせることに対する考え方を根底から覆えさせられるくらいの衝撃を受けても不思議ではない。それもやむなし。専門家と素人の差はそこにある。言い換えれば、そのような言葉が自然に出てくるようなレーシングドライバーのレッスンは、かなりの高レベルで内容も濃いといえるだろう。


③恥ずかしがらず格好をつけない
少人数制のレッスンとはいえ、仲間や友人、その日初めて顔を合わすであろう他参加者の目線…を気にしているようではダメだ。勝ち負けや誰が一番優れている…などは関係がなく、その日は自分を高める為の貴重な1日である事を理解して徹底すること。派手なブレーキロック、荷重不足による激しいアンダー、何度となくステアリングやスロットルの対処が間に合わずに起きるスピンやスナップ… これを堂々とやり過ぎるくらいの気持ちで、レッスンと向き合うことだ。その時には恥のように思えるミスを何度も経験して対処を学んでいけば、必ずや本当の自信を持って専門家領域に近づけるかもしれない。


ステアリングの保持方法やドライビングポジション、経験者であればあるほどに拘りがあるかもしれないが、専門家のアドバイスを受け入れて実践してみるべき。自信過剰なほどに、専門家と素人の差の広さを実感するはずだ。


④とにかくいろいろ試してみる
プライベートレッスンでは、服装は比較的自由な場合も多い。普段の運転スタイルのままレッスンに臨むのも間違いではないし、順応しやすい。しかし、レースやスポーツ走行を想定して、HANSまで使用したフル装備で受講するのも一向に構わない。この際、HANSデバイスの正しい装着方法やフルハーネスの正しい締め上げ方を教わるのも良いだろう。ヘルメットを装着し、4点式以上のフルハーネスで身体を締め上げてサーキットを走った際に、おや?いつもと違う…という経験をしたことがある人は多いと思う。


ヘルメット、レーシングスーツ、HANSデバイス、フルハーネスまで使用してレッスンに参加することにも大きな意味がある。また、レーシングギアの正しい使用方法も専門家に教わるべき。1人で正しくハーネスを締め上げるワザなど、なかなか聞けるものではない。

冷静に分析すれば当たり前だ。フルハーネスで身体がしっかりとシートに縛られた状態では肩は浮かない。四肢と頭以外の身動きが取れない程に固定されるのは、経験者であればおわかりだろう。頭部に関しては、ヘルメット後頭部の厚さ分が頭とヘッドレストとの間に加わって、頭自体の位置が変わりアイポイントが変わってしまう。そうしたいくつかの違いによって、普段を忘れて焦りが生じてしまうのだ。そんな焦りの中で限られた時間を走るレースやスポーツ走行はストレスが溜まるだけだが、レッスンではたっぷりな時間がある。納得のいくまでシート位置を調整しながら、慣れていけば良い。

また、ものの数十秒で走り終えることの多いレッスン時の特設コースだが、気合いが入り過ぎていたりスポーツ走行に慣れていないと、必要以上に息を止めてしまい走行後に過呼吸状態になる。これも我々素人がサーキット走行でよく陥る症状に似ている。その原因は、スポーツ走行がまだ「非日常」だからに他ならない。それを「日常の呼吸」のように行っているのがレーシングドライバーだ、といえば分かりやすいだろうか。

彼らも予選での一発タイムアタック走行を、決勝での毎ラップに行うことはないはず。イメージは彼らの決勝ラップでの「当たり前」走法だ。すべての操作を平常心で行っている、我々の日常運転に近づけられるようになるまで走り込むのである。


⑤ドライビングポジション=911を征するために…
一番大切なドライビングポジションを敢えて最後に記す。これは自分が衝撃を受けた最大の収穫だ。

レッスン受講前…自己流でシートバックを起こし気味にするポジションが好みであった自分が、今では寝かせている。もちろん、ペダルまでの位置は変わらず、ステアリングは合わせて身体に近づけて、腕に力の入らないセットアップに仕上げてある。最初は半信半疑で怖かったが、徐々に角度を変えていき、それが何を意味するのかを理解出来た現状が、最大の寝かせポジションになる。シートバックを座面と共に寝かせての0G状態=停車時において身体を自然と重力に任せるポジションである。


脇阪レッスンでの最大収穫であった、シート角度のセットアップ。少しずつ合わせて行き、何が正解なのかを探り当てるのも楽しい。これだけの事で突発オーバーステア→スピンの恐怖が消えるだけでなく、自信に繋がるのだ。いたずらに無謀なテクニックや部品改造に頼るのではなく、恐怖を取り除く自身の改造を施して結果に現れることほど、気分の良いことはない。

このポジションでコーナリングに入り、タイヤがコーナリングフォースを発生し始めると、腰から背中→肩にかけての横方向へのGが感じ取りやすくなる。その押さえつけられるような力の大きな時がタイヤのグリップ最大付近であり、弱まり始めるその瞬間がグリップを負かす状態だ。

これが身について慣れてくると、対G感知能力が鋭くなっているので、カウンターやスロットル操作が間に合って、スピンを抑制できる。また座面に角度がつくと、フルブレーキ時の減速Gをフットレストに踏ん張る左足だけに頼らなくなるので体力消耗軽減…即ち集中力維持にも繋がる。これはもちろん、ノーマルシート/ステアリングでも体感できるが、サーキットでのスポーツ走行等、より限界を試してみたいのであれば、バケットタイプのシートやディープコーンステアリングへの換装を推奨したい。


真冬の富士P7レッスンではこんな副産物も。日没が近づき気温が下がった際に、撒いた水が凍りついて凍結路面になったのだ。周りにガードレールや対向車があることを想定しながら、凍結箇所に進入してみるといい。安全に恐怖を味わえる。また964以降であれば、その優秀なABSを駆使して目標位置に完全停止させる遊びも為になるはずだ。


以上長々と書いてみたつもりだが、このようにドライビングレッスンでは、安全な場所でとことん911の限界を探って楽しめる。30分や1時間のサーキットスポーツ走行で得ることよりも、丸一日のレッスンで得られることの方が遥かに膨大なのだ。


脇阪レッスンと砂子塾の参加者の皆様。丸一日濃いレッスンを受けてみな笑顔。サーキットでのスポーツ走行やレースだけではなく、公道での緊急危機回避にも役立つドライビングレッスン。特異なレイアウトを持ち、危険だといわれやすい911を遠慮しながら乗っていくのではなく、911を征服することで「911だから安心できる」といえるようになれば、自身のポルシェライフもより充実するに違いない。

そして幾度となくレッスンに参加してからのスポーツ走行は、それまでのものより格別に楽しいものになっているだろう。

文:横浜ターボ 

RECOMMENDED