空冷911と向き合うこと│あらゆる都市伝説を解明 第二弾

Yokohama Turbo 2020/06/04

空冷911と向き合うこと…で触れたいくつかの都市伝説とその事実。前回では主に911の立ち位置や走らせ方に関することを中心に綴らせもらった。今回はさらに気になるであろう、基本的なメンテナンス等について触れてみたいと思う。

①タイヤはN指定でないとダメか?

まったくそんなことはない。もちろんのこと、いわゆる承認タイヤであるNタイヤを履くことに越したことはないのだが、しっかりとした造りの銘柄タイヤであれば問題はない。

まずは自分の使い方や走らせ方に合った性格のタイヤを探して選ぶことだ。街乗りやのんびりツーリング使用において、コンパウンドの柔らかいスポーツ走行向けのハイグリップタイヤを選択しておきながら、あっという間に磨耗することに文句などを言うのは的外れだ。


ターボに履かせているコンチネンタルのNタイヤ。国産ハイグリップ並かそれ以上にも感じるタイヤではあるが、本気で走らせ続けると5,000kmでこの有様だ。こればかりは仕方がないと割り切るしかない。

ただし、よほどの粗悪品や中古タイヤなどは言語道断である。これは911に限ったことではないが、価格が安いからといって飛びついたりするのは良くない。同じ理由で著しく製造年月日から時間の経ったタイヤを履くのもリスクは高い。また、指定空気圧を確認して守り、そこから好みの数値に調整していくのも楽しみ方のひとつだ。


993に履かせた非Nタイヤ。特に問題はなくスポーツ走行時に愛用している。このヨコハマは流れ出しが急でコントロールしにくい…みたいな話も聞くが、自分はそれならそれに合わせた走らせ方を探る…それを楽しむことにしている。


ホイールアライメントも大切だ。まずはメーカー基準値に合わせて、それに身体が慣れてから、あれこれと自分好みに調整するのが好ましいが、空気圧もアライメントも、何故ポルシェがそうしたか?を探り当てるのも911との対話の魅力だと思っている。


②暖機運転は必要か?

これは必須だ。特に冷間時始動においてはなおさらである。しかし、5分10分も延々とアイドリングをさせて暖めるのではない。停止暖機は、せいぜいタバコを1本吸い終わるくらいの時間でじゅうぶんだ。EFIの3.2や964/993などは始動してから間も無く走らせたところで何の問題はない。

しかし走らせ始めてからが、正しい暖機運転を求められるのだ。真冬であれば油温計の針は真下からなかなか上がらず気持ちは焦るかもしれないが、とにかく2,000rpmを超えない程度の低速ギアを選択して油温を上げること。油温計が動き始めたら、徐々に回転を上げていく。次第に音が揃い始めて油温計の針がひと目盛りめを超えたあたりから、常用回転域まで伸ばしていく頃が暖機完了だ。


走行暖機をしっかりと行い、適温まで油温を上げることを心がけたい。油温が上がりきらないようなちょっと乗りは避けたい。自宅から通勤路で10分で着いてしまうのであれば、遠回りして20分かける…それを励行している。また夜中に高速道路へ走りに行く際は、最寄りのインターから乗るのではなく、1〜2つ先まで下道を走って油温を上げてから…を守っている。

このような、始動後にすぐ走らせる走行暖機は、エンジンだけではなくミッションやデフ、ホイールベアリング等を適温にさせるものであることは言うまでもない。

なお、激しいスポーツ走行後のアフターアイドルに関しては、全開走行直後のアフターアイドルを心がけるのではなく、サーキットであれば1周ほどのクーリングラップを行なってから、短めのアフターアイドルを行うべきだ。


③オイルは何を入れたら良いのか?

まずはエンジンオイル。好みで銘柄を選ぶものではあるが、空冷911に関しては柔らかいものは避けたい。冷間時と温間時では、ピストン/シリンダーの密着度の差が大きい空冷911であることを忘れてはいけない。

また、高粘度を謳うオイルであっても2〜3,000kmで粘度が下がり気味になってしまうようなオイルも出来れば避けたい…が、交換サイクルがそれくらいであれば良しとするのもひとつだろう。


オイル交換は5,000kmサイクルを守っている。それ以内も良いとは思うがそれ以上はやめておいた方が良いと思う。なお、2回に1度のフィルター交換はお約束だ

参考までに、自分は平均的に5,000kmサイクルを心がけているが、その間粘度が下がりにくい銘柄を使用している。複雑に思われがちながら、簡単なオイル循環システムを用いた長いオイル流路を持つ空冷911だが、その一連の作動順序を頭に入れておくことも忘れないようにしたい。

その上でのオイル量管理方法を身につけておくことだ。メーターは目安、常にスティックゲージでの量を確認することと、入れ過ぎには注意だ。また、オイル管理のひとつとして真冬の高速道路一定速度でのオーバークールにも気を使いたい。油温を下げることばかりを考えるのではなく、適温を維持させることにも留意すべきだ。


特徴のあるドライサンプ式オイルシステムを持つ空冷911、その仕組みを理解してオイル管理をしっかりと覚えたい。

ミッションオイルに関してはあまり気にならないかもしれないが、壁をひとつ隔ててデフケースの部屋があるので、特にLSD装着車であればその部屋もミッションオイルで満たされていることを考えた管理を心がけるべきだ。


④エアコンは効かないものなのか?

そんなことはない。新車当時から効かないと言われ続けている空冷911だが、これもまずはシステムを理解することだ。

ほぼ車体全周をぐるりと廻るA/C配管…弱点はそこだ。Gシリーズや964では長いゴム配管からのガス漏れが目立つ。最終の993では金属配管が増えたので配管類からのガス漏れの心配は少ないかもしれないが、Gシリーズや964と共に劣化したエバポレータやエキスパンションバルブ、ドライヤー、コンデンサ接合部からも漏れやすい。


Gシリーズのフロントコンデンサ。上の物は134ガスが通りやすいチューブ形状で作られている。

エアコン自体を諦めてしまうのであれば仕方がないのだが、直す気力と予算があれば「効かない」はウソになる。30年前の物とは明らかに精度の異なるガスホース、R134ガスを通しやすい形状のコンデンサやエバポレータ、リビルドコンプレッサーまでアフターパーツで揃えることが可能だ。

Gシリーズであれば、さらにひと工夫を施し、エンジンフードのコンデンサにプル式ファンを追加すれば、寒いほどに効くはずだ。自車のGターボは一式交換を行ってから2年が経過したが、抜群な効きを維持している。


これだけ長い配管が、ほぼ車両一周にわたって張り巡らされている。これらを一新すれば寒いほどに効くようになるはずだ。


Gシリーズ裏ワザだが、バルクヘッドに位置するこの蝶ネクタイのような形状のガイド…これはほとんど意味がないので、取り外して塞いでしまう。すると行き場を失った冷気がフェイスレベル出口へ増量される。


バルクヘッドの穴を塞ぐのではなく、このようにガイドを付けるのも有効だ。蝶ネクタイガイドよりも、遥かに風量が増して、任意の方向へ冷気を導いてくれる。

空冷911と長く付き合うのであれば、一式を交換するだけの価値はある。もしくは、さらに高価ではあるが、思い切ってエンジンへの負担のない最新の電気式エアコンキットを装着するのも良いだろう。


⑤LSDは必要なのか?

オプションコード M220…Gシリーズクラブスポーツ、964や993のスポーツシャーシやカレラRSでは標準装備であった純正LSDだが、素のカレラにおいては非装着な個体が多い中古空冷市場。

結論からいえば必要は無い。元々リアエンジンというトラクション性能に優れた911なのだから、地面を蹴るチカラに不足はないはずだ。山道をそれなりのペース駆け抜けたり、サーキットでのスポーツ走行においてもしっかりと911らしい走りは出来てしまう。


LSD非装着時の1枚。内輪からの白煙が目立つだけで、ここまで出来る。ちゃんと前には進むスライドだ。


これに関しては、自身で必要性を感じてからの装着をお勧めしたいというのが本音だ。

積極的にブレーキを活かして車を曲げることを覚えてきた際や、スライドを活かして意図的に向きを変えたい時…つまりそこまでの領域で初めて効果のある部品であることを再認識したい。それをわからずに組んでしまうと、本来の911の味がわからないままに、走りにくい…なんて誤解を生じてしまうおそれがある。

スポーツラジアルタイヤが前提であれば、純正やそれに近いロック率のものでじゅうぶんだ。ただし、M220純正LSDといっても車種別に様々なロック率のものがあるので、使用用途に合わせて探す必要がある。


’86カレラに装着した、純正LSDと、EU標準装備のミッションオイルクーラー。純正LSDは効き目が弱い…などと言う前に911ならではの車両挙動と、それに合わせたタイヤとのマッチングを知るべきだ。

セミスリックタイヤ以上、完全なサーキットスペックの脚廻りを装着してタイムアタックやレースでの使用を前提とするのであれば、純正では物足りなくなるのでそれなりのものが必要になってくる。しかし、組み付けやセットアップは、911を完全に理解しているショップやメカに作業を依頼すること、そして自身の走らせ方に合わせたセッティングが要求されるので慎重にならなくてはいけない。

RECOMMENDED