クラシックポルシェのエアコン問題に終止符を打てるか !?│エアコン付き911Tに試乗

外気温は30℃以上、青い空と緑にフロッググリーンが爽やか。でもそのとき室内がうだるような暑さだ ったら…。購入時からカレラフェンダーだった車両は「だったらオリジナルに戻すより楽しさを追求しよう 」となったそう。

「 “エアコン”付きの911Tに乗ってみませんか?」
「エアコン付き、ですか?クーラーじゃなくて」
「電動コンプレッサーを採用した…」
「乗りたい!」

電動コンプレッサーによるエアコン付きのクラシックポルシェの存在を知ったのは昨年の『オートモービルカウンシル』でのこと。その後、レポート記事を読み、ずっと気になっていたものが、今回試乗させていただくことになったKOA SPEEDの911Tだ。71年式、エンジンはライトチューンが施されながらも基本はストック状態をキープした2.2リッター。同ショップ代表 大坪さんの個人私物で、「この車両で自宅と店舗の約30kmをほぼ毎日通っています」という通勤の足でもあるそうだ。ただし、かつては夏を除いて、の話だった。「そうなんです、やっぱり夏は、クルマも辛いし人間も辛い。僕自身もクラシックポルシェのいちオーナーとして、歴代車両で何度も夏と戦いました(笑)」

自身も試行錯誤を繰り返しながら、辿り着いたのが電動コンプレッサーという発想と、イギリスに本拠を構えるクラシック・レトロフィット社との出会いだった。「シンガーやRUFも同社製を採用していると聞き、そこからは早かったですね」


実は筆者にとって初体験だった2.2エンジン。自身の930と比してさぞ非力かと思いきや、なかなかどうしてオートバイのエンジンのようで楽しかった。「街中でも6000回転くらいで走ったほうが気持ちいいですよ」と大坪さん。


エンジンフードを開けてもそこには余計なものは一切ない。本来のフラット6が持つ低重心でコンパクトなエンジンがあるだけという潔さが格好いい。

余談ながら、筆者が現在所有している84年並行の930カレラも十分に日常使いできるコンディションで、これまでもトラブルらしいトラブルは一度もなく過ごしている。この930は夏の熱対策としてフロントに964用の自動温度感知式のファン付きオイルクーラーを装着していることもあり、油温は夏でも驚くほど安定していて、行楽時期の大渋滞は常識のレベルで避けるように心がけてはいるものの、日常のストップ&ゴーではまったく気にせず使用できている。

ただ、脆弱なクーラーだけは如何ともし難く、サンデン製のコンプレッサーをオーバーホール、エンジンフード上のコンデンサーにファンを増設、リアタイヤハウスのエバポレーターにもファン増設、とまあやれることはやっているつもりなのだが、今度はバッテリーとエンジンへの負荷が気になりだし…。と、あちらが立てばこちらが立たずな状況だ。


コンクールコンディションではなく、日常使いに主眼を置いた室内。アルミのフロアボードもクラシカルなレカロシートも、レーシーながら実用的。


本来ならラジオデッキが配置される中央部にエアコン吹き出し口を新設(オプション)。シンプルな車内に違和感なく溶け込む。音楽も楽しめるように、基本のキットは吊り下げ式を用意。


オリジナルの空調コントロールパネルを使用しながら、まさに“エアコン”としての操作パネルに。ちなみにパネルもそれぞれ年式と個体によって差があるために、仕様はオーナーとの相談になることも。

試乗させていただいたのは6月上旬、各地で今年初の30℃越えが記録された猛暑日で、日差しの中にしばらくいると、ジリジリと日焼けしているのが実感できる。KOA SPEEDのエアコンキットの冷却能力を知るには最高の日だった。

操作はいたってシンプル。エンジンをかけ、930までのポルシェではおなじみの空調コントロールパネルの一番上のレバーを右端にスライドさせる。すると中央のエアダクトと増設された左右ダクトから風が。パネルの左側(つまりハンドル側)に増設されたプッシュボタンをオンにすると、ほどなくして冷やされた空気が出はじめる。この時点ではまだ走り出していない。が、2分もすると「あ、きましたね」と言えるレベルに。走り出して5分もたてば十分に冷えた空気が車内に送り込まれ、窓を自然と閉めたくなってくる。それから30分間ほど、店舗周辺の街の中を2、3速メインの速度域で試乗させていただいた。


オリジナルのブロワーケースの位置にすっぽりと収まっているキット。ラゲッジスペースのマットを剥いでも、キットがどこに入っているのか気付かない。


電動コンプレッサーユニットはブロアケース手前のボックスに収納。今後の課題はよりオリジナル然とした佇まいのためにブロアケースの間仕切りを付けようか思案中らしい。

結論からいってしまうと、快適だった。快適といっても人それぞれだろうから詳記するが、まず現代の国産車ほどに効くわけではない。効かない、のではなくて、効きすぎない。試乗後、背中に汗をかいていない、というのも快適の目安。僕にとって快適なのは993カレラのそれだったから、そこを基準にして、993カレラより効く、というのが快適さの詳細だ。いずれにせよポルシェを所有し、クーラーの脆弱さに悩む僕にとって目ウロコなキットなことは間違いない。とにかく930以前の空冷ポルシェが抱えている“こんなエアコンがほしい”のほぼすべての点を実現させている。

1) 効く(以前所有していた993カレラより効く:個人的見解)
2) 動力源をエンジンに頼っていないためにエンジン負荷がほぼない
3) 当然エアコン(本来はクーラー)使用時のパワーロスがほぼない
4) 停車、低速走行時の冷却力の減退がない
5) ガラスが曇りにくくなり、曇っても除去がスムーズ
さらに、
6) 付帯物がないため、エンジンルームがすっきりする
7) 煩わしさから解放され、ドライブに集中できる
という副産物も。

「電気式にすることで、最大の熱源であるエンジンルームからコンプレッサーとコンデンサーを除去できたことが何よりも大きいですね。結果、本来のシンプルで美しいエンジンルームが実現できたのも満足です」。とはいえ、気になるのがバッテリーへの負荷だ。

「もちろん、バッテリーへの負荷はかかります。長時間のアイドリング状態が続くときはバッテリー容量確保のために一定時間で自動オフの機能も付いています」。さらにキット換装時にはスティックヒューズからブレードヒューズへの交換も推奨している。「クラシックポルシェは当時のディーラー車両と並行輸入車両では同年式でも細かく仕様が違いますよね。ましてやクーラーや電気、オイルまわりは歴代のオーナーによって手を入れられている場合がほとんど。なのでキット販売とはいえ、どう仕上げるかは都度お客様と相談しながら進めるようにしています」


30分間の試乗で、結果一度も窓を開けることはなかった。十分に快適なエアコンであることは間違いない。


コンプレッサーから配管、150Aのオルタネーターなどが入ったキット一式、90万1000円(税別)。標準取り付け工賃は40万円〜。細かな仕様については車両毎の状態によるそうなので、ぜひご相談を。ポルシェ、ことに空冷時代の911は懐の深いクルマだ。いろんな乗り方、接し方ができる。そこに季節を問わない快適さが加わったら、ますます愛車との関係は濃密になるように思えてならない。KOA SPEEDの911Tの快適な空間を楽しみながら、自身の930の車検の見積もりと、エアコンキット購入費を計算しつつ。



コアスピード
横浜市都筑区大熊町861-1
TEL:0120-315-911
URL:https://www.koaspeed.com/


文:前田陽一郎  写真:瓜生ありさ

文:前田陽一郎  写真:瓜生ありさ

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