無上の喜びを与えるオープン356│3台を試乗して比較した感想

オープンボディの356は長い生産期間に進化していった。異なる3台を比較する。

試乗した3台のオープンタイプ356は、どれも丹念な整備を受け、きちんと調整されている。おかげで、新車当時いかに特別なクルマだったかを即座に実感できた。3台とも軽くて敏捷だ。ステアリングは初期ポルシェに特有の逸品で、切り始める前からドライバーの望みを察知するように感じる。とはいえ、それぞれに微妙な違いもある。

 
最も軽いスピードスターは、カートさながらの鋭いレスポンスを示す。また、四方に開けた視界によってスピード感が増幅される(フードを上げると、そうはいかないが)。356 の小ぶりなサイズも相まって、狭い道でも走りやすい。1600ccのフラット4は出力60bhpだからスピードは控えめだが、それでも飛び切り楽しいクルマだ。シフトはストロークが長いものの、正確に入るのも嬉しい。
 
スピードスターを成長させるとロードスターになる。"B"シリーズからヘッドライトの位置が上がり、がっしりしたバンパーが付いたので、初期のフロントエンドの滑らかさは消えた。とはいえ、クーペより35kg軽いから、軽量な356には違いない。
 
走りの印象はスピードスターに似ているが、きちんとした計器パネルや厚めのクッションなどで、インテリアのグレードは上がった。ウィンドスクリーンが変わっても視界に大きな影響はない。ルーフを下げて田舎道を飛ばせば、同じように“ 髪に風を感じる”心地よさが味わえる。2台ともドラムブレーキのため、現代のアシスト付きディスクブレーキの繊細さに慣れたドライバーは、制動距離とペダルを踏む力について、最初は感覚を調整する必要がある。だが、すぐに慣れるものだ。
 
カブリオレSCは、進歩の度合いがより明確だ。356SCには、4輪ディスクブレーキなど、911と同じ装備がいくつも盛り込まれていた。ポルシェは1965年4月まで356の生産を続け、その間に後継モデルの製造工程を確立したのだ。試乗した中でも、他の2台に比べてはるかに洗練されたクルマという印象を受ける。
 
車内の充実した装備とフードの向上が真っ先に目に付く。サスペンションも幾分ソフトになった。アンチロールバーは太くなったが、トーションバーがマイルドになり、リアサスペンションの横置きリーフスプリングが排除されたからだ。その結果、寛容さが増し、乗り心地が柔らかくなった。ただし、重さは確かに感じる。車重はロードスターより45kgと少し増えた。それを補って余りあるのがエンジンで、排気量は同じ1600ccだが、出力は95bhpに高まり、トルクが大幅に増強された。他の2台よりひとつ高いギアを選択できることも多く、シフトレバーも明らかに短くなった。よりリラックスして楽しめるクルマになった反面、ドライバーに“踏ませる”せき立てるような印象は初期356よりわずかに薄まった。
 
このカブリオレは、ブレーキに社外品のサーボアシストを備える。技術の進歩によって、ドライバーが先を読む必要性はなくなっていった。ディスクブレーキはその好例だ。とはいえ交通量が増加し、1960年代中頃にはパフォーマンスカーに必須の装備となっていた。
 
ミック・ペイシーは356 のエキスパートだが、ニューポート・パグネルに住んでおり、父親はかつてアストンマーティンで働いていた。356の進化はDBシリーズになぞらえられると話す。「DB4は最も軽量でドライバーにフォーカスしたクルマでした。しかしDB6になると重くなり、パワーは向上したものの、スポーティーさは弱まりました」
 
オープンタイプ356の魅力を知る者にとっては、3台とも最高のクルマだ。その後の世代で大きく失われることとなる、ドライビングに関与する楽しさやフードを下げて走る喜びを堪能できる。ベテランのロードテスターでヒストリックカーのレーシングドライバーでもあのトニー・ドロンは、著書『Porsche –Engineering for Excellence』の中で、356を現代のモデルと比較し、次のように評している。

「これらは別の時代のクルマだ。ホットハッチと違い、腕の悪いドライバーは噛みつかれる。しかし、いったん理解し合えれば、そのドライブは無上の喜びとなる」

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo. ) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.)  原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: Kieron Fennelly Photography: Andy Tipping

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