日常の足として使える信頼性と実用性│ポルシェ「ナナサン」カレラを再評価

この記事は『「ナナサン」カレラを再評価する│その魅力の源はどこにあるのか』の続きです。

それまでの2.4リッターから2.7リッターに拡大されたカレラRS用6気筒エンジンは210ps/6300rpmと255Nm(26.0kgm)/5100rpmを発生した。それまでのスチールライナーの代わりに採用したニカシル(ニッケルとシリコンカーバイドの化合物)メッキ・シリンダーはレース技術の転用である。


その後モデルによってアルシル(アルミ・シリコン)シリンダーを使用することもあったが、ポルシェは昔から最先端素材の導入に積極的だったのである。それ以前の高性能版2.4Sも190psを生み出していたから、パワーの増加分はそれほど目覚ましくはないが、排気量アップによるトルク増強で柔軟性がさらに増していた。メーカー公称の最高速は240km/h、0-100km/h加速は6秒弱と、当時としてはもちろん素晴らしく速かったが、カミソリのように鋭く吹け上がるが、扱いにくいフラットシックスエンジン、ピーキーで神経質なハンドリングという世間の評判は、多分に、というか私の経験ではほとんど都市伝説的な誤解である。



911もそれ以前の356も、ポルシェはすべて実用的なスポーツカーであり、長距離旅行に耐えるGTカーである。高性能だが実用的という点が重要であり、同時代の多くのスポーツカーと決定的に異なる特徴である。晴れの日に、ちょっとだけガレージから引っ張り出し、山道を飛ばしてストレス発散するという、週末スポーツカーではない。それこそ現代の日本でも、問題なく日常の足として使える信頼性と実用性を備えているのだ。
 
現代の眼から見れば、わずかと言ってもいい210psの最高出力である。しかしながら、当時の911カレラRSのボディサイズは全長4.2m足らずで全幅1.66m、排気量を除けば5ナンバーサイズに収まるほどコンパクトで軽量だった。カレラRSのツーリング仕様は1075kg、スポーツ仕様はさらに100kgほど軽かったとされている。ちょっと乱暴なたとえだが、現行型マツダ・ロードスターにもっと強力なエンジンを積んだ車を想像してもらえばいい。しかも、カレラRS(他の911もそうだが)は、いわゆる"瞬間風速的"に速いのではなく、高性能を維持できるスポーツカーだった。たとえば200km/hをキープして走り続けられるスポーツカーは当時ほとんど存在しなかったのである。



最近はRS2.7をチューンアップして、世界中のサーキットを席巻したレース用カレラRSR仕様にモディファイした車も見かけるが、スタンダードのカレラRSは実は扱いやすい車である。慣れればアイドリングまま動き出すこともできるほどだ。また信頼性も抜群だ。きちんと整備された良好のコンディションの車なら、東京都内の夏の渋滞の中でも何ら問題はない。オプションではクーラーも用意されていたが、人間の方が先に音を上げてしまうような暑さの中でも、一度も不機嫌になったことはない。



45年以上経った現在もカッチリしたボディの剛性感を失わず、ダイレクトで硬質、かつシャープなスロットルレスポンスとスタビリティ高いハンドリング、さらには日常的に使える信頼性とタフネスを兼ね備えたカレラRS2.7は、今初めて正当に再評価されているのかもしれない。

文:高平高輝 Words: Koki TAKAHIRA 写真:芳賀元昌 Photography: Gensho HAGA 撮影協力:LA-SSERRE (TEL 0550-78-1924)

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