356スピードスターとハネムーンの思い出

ポルシェ356スピードスターをドライブして、ハネムーンでスペインへ行く…最高にロマンチックな話だが、現実はそう甘くはなかった。結婚50年を迎えたデルウィン・マレットが思い出を語る。

わが家の"アーカイブ"という名のガラクタの山の中から、何の理由もなく、だがタイムリーに、忘れていた思い出を呼び覚ます宝物が見つかった。私はまったく別の品物を探していたのだが、それが見つからなかった代わりに、ここに掲載した1枚の古びた写真が出てきたのである。新妻のキャロルと私がスピードスターでハネムーンに出発するところだ。1969年7月12日、これを執筆している今から、ほぼきっかり50年前のことである。
 
目的地はスペイン北東部コスタ・ブラバのレスタルティットだった。美しい海岸線が続くあの一帯は、今では巨大リゾート地と化しているが、まだ観光ブームや開発で変わってしまう前の話だ。レスタルティットは小さな漁村に過ぎず、高層マンションもなく、ホテルが数軒あるだけだった。牧歌的といえば誇張になるけれど、比較的昔の姿を留めた魅力的な場所だった。
 
スピードスターは2、3カ月前に購入したばかりだった。私の最初のポルシェである356Aクーペを売って、それを元手に手に入れた"夢のクルマ"だ。短期間は2台とも手元にあった。クーペのエンジンはパワフルなスーパー75だが、スピードスターは"ノーマル"だったので、私は売却前に2台のエンジンを交換した。マッチングナンバーがうるさく取り沙汰されるようになるのは、ずっとあとのことだ。このスピードスターはエンジンの換装を重ねて、今や何と4基目である。
 
旅の準備は簡単なものだった。工具をいくつかトランクに放り込み、サイドウィンドウがないので、夜間のささやかな盗難対策としてキャンバスカバーを積み込んだ。あとで考え直し、小型のテントも付け加えた(12年落ちのスポーツカーに対する信頼の欠如がうかがえる)。どちらも、私たちが遭遇した最初の"緊急事態"で出番が回ってくる。
 
フランスで初日が終わる頃、あるパターンが現れ始めた。恥ずかしながら、それは今日に至るまで変わっていない。妻のキャロルは、最初の夜を過ごす宿を早めに見つけようと言ったが、私は先を急ぎたかった。キャロルの予想は的中し、あとになって、どの宿にも空室がないことが分かった。辺りはみるみるうちに暗くなり、ヘッドライトまで陰り始めた。ついに前の町と次の町の双方から何マイルも離れた地点で、スピードスターのバッテリーはコイルにエネルギーを供給するのをやめてしまった。私は惰性を利用して何とか道端の草地にクルマを止めた。しばらく車内を静寂が包んだ。聞こえるのは冷えていくエンジンの不規則な金属音と、キャロルのかすかなすすり泣きだけ…。
 

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