356スピードスターとハネムーンの思い出



ハネムーンのスタートとしてはひどいものだが、事態はさらに悪化する。既に遅い時間、しかも田舎道だったので、助けを求めようにも通りかかるクルマがまったくないのだ(日が暮れるとフランス人はどこへ行ってしまうのだろう…)。その場で夜を明かすしかなかった。私はテントを取り出したが、漆黒の闇の中でテントを張るのは容易ではない。しかも、地表から数センチのところに硬い岩があるらしく、テントのペグは跳ね飛ばされて暗闇に消えた。私はテントを諦めて放り出すと、クルマの中で寝るしかないとキャロルに告げた。キャロルはいい顔をしなかった。サイドカーテンがないのだから、悪い人が通りかかったら何をされるか分からない。
 
そこで閃いた。待てよ、クルマのキャンバスカバーを積んできたじゃないか。私は車内で体をひねり、専用の太いゴム紐をかけてカバーを固定することに成功した。こうして快適とはいえないまでも、私たちは安全にすっぽりと包み込まれた。昨今、スピードスターには誰もが薄いバケットシートを装着しているが、新車当時は多くがフルリクライニングの標準シートだった。幸い、わたしの356もそうで、しかも"ワイドバック"と呼ばれるタイプだったので、後ろに倒せば比較的快適に体を横たえることができた。ところが、間違っても快適とはいえなかった。
 
まったく換気ができないので、車内の温度は瞬く間に上昇してサウナのレベルを超えた。私たちは服を着たまま横になったが、今度はどんどん脱いでクルマの外に押し出さなければならなかった(これは色っぽい話ではない。純粋に生存がかかっていたのだ)。汗だくになりながら断続的に眠りに落ち、数時間が過ぎた。真っ暗で腕時計も見えないので、私はゴムを緩めてそっと外をうかがい、慌てて頭を引っ込めた。「キャロル、大変だ!」
 
数時間前まで完全に無人だった田舎道が、今やどちらを向いても果てしなく続くクルマの列で埋まっていたのだ。フランスでは今でも続くバカンスへの大移動が、寝ている間に始まっていたのである。選択肢はなかった。私たちは半裸の状態でクルマから飛び出すと、放り出した服をかき集め、大慌てで身に付けた。
 
きっと今でもフランスでは、どこかのディナーパーディーで話の種にされているに違いない。「あの話をしたことはあったかな。イギリス人のカップルが、ちょっとした"お楽しみ"のために、古いポルシェを道端に止めていたんだ。本当に笑える光景だったよ」
 
少し押すとスピードスターは息を吹き返した。この旅ではさらに何度か故障を経験したが、その話は別の機会に譲ろう。
 
以来50年間、キャロルは私のクルマ道楽のせいで、野宿や故障、ガス欠などに何度も付き合わされることになった。アバルトにベントレー、BMW、メルセデス、タトラ、そしてもちろんポルシェにも、一度ならず不測の事態で立ち往生させられた。信じられないことに、私は今でも同じスピードスターを所有している。そしてもっと信じられないことに、それよりはるかに大事な妻が、今でも一緒だ。愛するキャロルに、結婚50年の感謝を込めて。

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