生い立ちから現状までを証明│クラシック・ポルシェに「見える化」を

クラシックパートナーが実施するポルシェクラシックテクニカルサーティフィケート。既存の定期点検だけにとどまらない、車両の生い立ちや新車当時の仕様まで教えてくれるという。ポルシェが考えるサーティフィケートの存在意義とは何か─。さらにその魅力を探るためクラシックパートナーの一拠点であるポルシェセンター横浜青葉へと赴いた。

ポルシェ・タイカンを代表として、スポーツカーに主軸を据えながら未来のモビリティを積極的に提案する一方で、クラシックの世界も大切に守り続ける。その姿勢を顕著に示すプログラムが発表されたのは2019年9月のこと。『ポルシェクラシックテクニカルサーティフィケート』が、日本に4拠点存在するポルシェクラシックパートナー店において販売開始された。
 
プログラムの対象となるのは、製造中止から10年が経過し、ポルシェAGが正式に『クラシック』と認めたもの。古くは356にまでさかのぼり、近代モデルで言えば996型911、986型ボクスターなども含まれる。カレラGTといったスペシャルモデルであっても分け隔てなく該当する。


 
発表の際のリリースを紐解くと「製造時の各種データや、車両の現在の状態を明確に証明するもの」とされている。具体的にはどのようなものだろう。と、お伺いしたのはクラシックパートナーの一拠点にして、かねてよりクラシック・ポルシェの魅力を訴え続け、それらの普及を促進してきたポルシェセンター横浜青葉である。

「素性や現在の仕様に対して、不明瞭な部分が見受けられがちなクラシック・ポルシェにこそ"見える化"を、という施策です。目の前にある個体が、いつ作られ、最初はどこの国へ納車されたのか。新車当時の仕様、オプション装備はいかなるものだったか。さらにエンジンやミッションは、今でも新車当時と同じものがマッチングされているのか。これはクラシック・ポルシェに対する出生証明書のようなものだと考えています」
 
と、同店のアフターセールス部担当の方が言うように、持ち込まれたクルマから、車両識別番号(VIN)を筆頭に、エンジン番号、ギアボックス番号などの各種情報を読み取り、ポルシェAGのデータベースと照合することで、新車時の仕様を露わにする。レストアやカスタムシーンでの人気が手伝い、多種多様な姿カタチへと変貌を遂げてきたような空冷911には絶好のシステムだと思う。素性の分からない中古車であっても、このプログラムがあれば新車時の仕様がわかる。日本への正規輸入車だけでなく、いかなる仕向地へ向けた車両でも判別できる。



「我々は決して、オリジナルであることを絶対とは考えていません。このシステムは、車体の出所を明確にしたうえで、エンジンやミッションなどのマッチングを判断する。結果としてどこかがオリジナルと異なっていても、オリジナルへの是正を促すことはありません。機能部品の経年変化や消耗品類の点検を含めて、あくまで現状を的確にお伝えすることに意義があると考えています」
 
生い立ちやマッチングのほか、現状をも事細かく点検してくれる。タイヤやブレーキパッド、油脂類およびその漏れの状況といった一般点検内容を網羅しながら、車両の状態を見極める。たとえば「今装着されているタイヤやブレーキパッドはポルシェ純正指定ではありません。しかし、走行に支障をきたす劣化状態ではありません」といった具合で、明らかな整備不良や車検非対応でなければ、オリジナルではなくても尊重して受け入れてくれる。


 
素性の不明な車両はもちろん、たとえば前オーナーから、あるいは付き合いのあるショップから情報を伝えられていたとしても、一度、鑑定してもらうつもりで見てもらいたくなる。それ自体が思い出の一片になるし、たとえ情報が異なっていたとしても前向きに捉えることができる。実際、ワンオーナーで乗り続けてきたユーザーで、出所や仕様の判断など不要なのに、それでも記念にと訪れるケースもあるという。プログラム終了後、オーナーへと手渡される子細にわたる文書を見ると、各種データのほか、実際に作業を担当したポルシェ認定クラシックテクニシャンによる所見(感想)なども記載されている。もちろんポルシェAGが認めた公式文書であるがゆえ、信頼性という意味では折り紙つき。これで5万5000円(税込)というのは素直に安いと思う。



「世界各地にあるプロショップ様の技術力は否定しません。世の中には卓越した腕をお持ちのプロフェッショナルが数多く存在します。しかし、主治医と出会えない方や、そこに敷居の高さを感じておられる方も含めて、ぜひ、気軽に本プログラムをご利用して頂きたいと思っています」
 
さらに同店では独自の取り組みとして、診断時にムービーを撮影してユーザーへ提示するような"見える化"を実施する。パーツ寿命やオイル漏れを例に挙げると、状況は個体により千差万別だ。「こういう状況だから修理、交換が必要」というアドバイスを、ムービーと共にユーザーへ伝えてくれる。普段は確認することが困難な下まわりも一目瞭然だ。このプログラムはつまり、車両の素性や履歴に始まり、現状までを含めた"見える化"である。クラシック・ポルシェを手に入れ、共に過ごす。その環境や考え方は人それぞれだろうが、愛車を大切に思うのなら、ひとつの再出発点として頼みたいプログラムである。

文:中三川 大地 写真:山本 佳吾 Words:Daichi Nakamigawa Photography:Keigo Yamamoto

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